第12話 行方不明の噂

「なんだか変な……不思議な子だったね」

 嵐が去った静かな廊下でティナが口を開いた。

「ティナに言われると納得行かない気もしそうだけど、びっくりしたよね」
「え? それはどういう」
「あの子、一年生だよね」

 ティナの聞き返しをまるで匠のようにキレイに受け流したレミィは、確認するように投げかける。

「あ、うん。あの子、噂ではよく聞く子だよ。実際に会ったこととかはないんだけど」
「噂?」
「うん、あの子の瞳見た?」

 瞳……とつぶやいたレミィは、先程顔を合わせたときのことを思い出していた。

「そういえば、キレイな黄色の瞳? をしてたよね」
「この学園でも……ううん、世界でも珍しい瞳を持つ子の一人なんだって。なんて言ったっけ。ウルフ……アイ?」
「へー凄い名前ね。でもそういえば見たことないかも」

 ちょっとだけの博識さを見せつけたティナに、眉を上げて驚いてみせるレミィ。

「でしょ。だからね、噂になりやすいんだ。で、それだけじゃなくてマスティカの力も強いんだとか。これもその瞳の性質? なんだとか」
「それはまぁ、今さっき見せつけられたわよ」

 そう言って、そのマスティカを思い出すレミィ。

「凄かったよねー。雷の力だったよ。まぁ、あたしのレミィほどじゃないけどね!」

 なんでティナが自慢げに言うんだろう……。そう口走りたそうな顔を見せるレミィ。
 
 ――いや待って、あたしの?

 そんな真横にいるティナは、なぜか満足気に頷いていた。そして、ようやく二人の足が帰路へ向かおうかと歩みだしたときのこと、休みを知らないティナの口は「そういえば」の一言からまた開き出した。

「噂ついでに最近ねー、学園の人が行方不明になってるって、変な噂が流れてるみたいだけど、レミィ何か聞いたことある?」
「なにそれ。そんなオカルトなの聞いたことないよ」
「……レミィって、噂に疎いよね」

 ちょっと冷めた口調のティナ。

「あんたが噂好きなだけでしょ」

 トーンが下がるレミィの口調。だがどちらのも「いつものこと」感が漂うものだ。

「放課後、また明日って友達と別れたんだって。いつもと何も変わらない雰囲気だったらしいけど、翌日、その友達は突然休んだらしい。その人は、友達は急な体調不良なんだろうなってその時は何も思わなかったみたいなんだけど、それから友達は一切来なかったっ……て」
「……なにそれ。ホラーじゃなくて? ……え、てか来なかったって、それからずっと?」
「らしいよ。学園には来ない。でも、連絡は取れるらしくて。ただ、今は顔を合わせられないとか、そのうち行くからとか、なんかいろんないいわけ? 言って顔を合わせることは無いんだって」
「それこそ変じゃない。変って思うでしょ。それで、その子そのままにされてるの? 都市伝説とかじゃなくて?」

 うーんと少し考える顔をするティナ。

「まぁでも、本人から大丈夫だって言われて、そこから詮索? それ以上どうすることもできないのもあるのかもしれないわけで」

 んまぁ確かに……と、腕組みした格好が少し様になるレミィ。

「でもね、一年生とか、三年生とかでも、結構噂になってるらしいよ、先々週くらいから」 
「もう複数事例でてるの?」
「被害っていうか、実際に居なくなったらしいのは、手で数えられるくらいだって。でも、それは直接聞いたわけじゃないから正確にはわからないんだけど」

 そんな噂を一体いつどうやって仕入れているのだろうか、とそこばかりが気になり始めたレミィだったが、とりあえず頷いておくことにしていた。

「この学園って、何かと不思議があるみたいよね」
 
 ため息混じりなのはレミィ。

「まぁ、魔法学園だからね」

 どことなく嬉しそうなのはティナ。

「ちょっと、あなたたちもその話知ってるの?」

 ティナがエヘン顔をしようかとしていたその時、どこかで聞いたような声が二人の後ろから聞こえてきた。
 というよりはつい先程聞こえていた声のようだ。

「あれ、あなたはさっきの……」

 その顔をみるや、少々強張りの顔をあらわにするレミィ。

「ノアっていうから。覚えて」

 なんとも強引な自己紹介。

「なに、またやる気?」

 きっ、と目をきつくするレミィ。その右手は左胸のペルマに伸びようとしていた。

「ええもちろん! シルフィードとは決着つけないといけないから! ……って違うから。いや、戦うのもいつかはそうなんだけどさ、今の話。行方不明者の話。何か聞いてるの?」

 意外な所に噂の共有者がいたのか、とティナが恐れ半分ウキウキ半分と器用に見せている。だが、そそっと半分レミィの陰に隠れていた。

「あたしが噂を聞いたんだよ。本当のこととかはわからないけど」
「そっか」

 ノアは極端にがっかりした様子を見せていた。

「あなたもこういうの好きなの?」

 同類を見るようなティナの視線と声がノアをとらえる。

「あなたと一緒にしないで、ちちおんな」
「ちっ……!?」

 ノアの突然の罵りに、ティナはボッと赤面し、我慢のできないレミィはぷっと吹き出した。ティナに背を向け、それでも必死に堪えていた。

「あたしは行方不明になった人たちを追ってるの。二週間くらい前から急に起こり始めたこの事件。でも、手がかりがなかなかつかめないから」
「学園には来ない。だけど、連絡は取れるってあれよね」

 必死に堪え、堪えぬいたレミィが身振りも合わせてティナから聞いたことを述べた。

「そう……。それ。意味分かんないから」

 そのままむーっとした顔になるノア。一端にメモノートを取り出して、捜査気取りをしているのか。そのノートには何が書いてあるのか。
 一通り自分のノートを眺め見た後、唐突にその指をビシッとレミィに向け、口を開く。

「あなたたちにも! 手伝ってもらうから!!」
「え、なんでよ」
「だってそんな噂でも、仕入れてんでしょ。だったら話が早いんだから」

 突然何いってんだ……とは言わずとも、そう怪訝そうに顔に出しているのはレミィ。心底面倒くさそうな雰囲気が手にとるようにわかる。
 そして大きなため息も。




「で、心当たりあるの?」

 結局ノアの言うとおりにしているレミィは、やはり人がいいというのか。

「……聞き込みを、だね」
「まぁつまり何もわかってないってことなのね」
「噂のでどこっていうか、噂の元に聞いてみるのが早いよね、多分」

 今日のティナはどこか冴えている。
 ……ような気がしてしまうほど、ノアがあまりに当てにならないような予感がしている。とレミィが思っている。
 


 学園内の休憩スペースに、ノアを含めた三人で揃って座っている妙な光景。この後の学園は概ね自由な行動が可能となっている、フリータイムだ。
 ノアはこの時間を利用して、地道に聞き込みをするつもりだったらしい。
 どうも今わかっているのは、ティナがほとんど話した内容と同じであり、つまりノアも噂でしか掴んでいないということだった。
 
「てかね、私達の力だけじゃ限界在ると思うんだけど。エルナさんに聞いてみたほうがいいんじゃない?」
「エルナ?」

 頬杖ついて、少々やる気の無さが見えているノアが、聞き返す。

「うん。この学園のプレイシア・アレストル、エルナさん。やり手よ」
「強いの?」

 この子は戦うことしか頭にないのだろうか。と、ちょっと唖然としてみせるレミィだったが。

「まぁ、ノアじゃ相手にならないと思うよ」
「なんだと」
「てゆーか、ノアちゃんじゃレミィにも負けると思うよ。彼女を誰だと思ってんの?」

 言ってガシッとレミィの腕を掴んでアピールしている。腕というより二の腕だけど。

「うるさいよちちおんな」
「あ! また言ったぁっ!!」

 ノアの言い方とかその性格はいただけないものがあるが、「ちちおんな」なる蔑みにはちょっとスッキリする心当たりがあった。
 
「じゃ、まぁここで喋っててもどうせ何も進まないから、とりあえずエルナさんとこ行こう」

 仲がいいのか悪いのか、ティナとノアはハモリ気味に間延びした返事を返してくれた。


第13話

この記事へのコメント

  • つねさん

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    2020年05月22日 07:34
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