第15話 不穏な影

 古びた建物。二人の男の元へ、破れかけのフードを被った男が戻ってきた。
 光も届かない、少々じめっとした雰囲気の場所。一人の男は奥の更に影になる場所に、もう一人の男は、まるで命の見えない目をしたそのフードの男を、見下ろすように立っていた。
 
「なにか見つけたようですね、アール」

 メガネを掛けた男は、その左手をアールと呼ぶ男に向けていた。
 その手は怪しく光っている。

「……」
「風のマステニアの少女ですか」
「……」
「力も上々で」
「……」
「しかしそれを邪魔されたわけですね」

 アールは一言も喋ってはいなかったが、メガネを掛けた男は淡々と言葉を出してくる。

「……セドル。その少女」
「エザキ様」

 奥に座る男、エザキが重々しく口をだした。
 その声を聞いたセドルは、エザキの方を振り向き一礼した。

「シルフィードと呼ばれている少女だな。エルパローラにいる」
「ご存じなのですか?」

 ギィっと椅子の軋む音が聞こえ、エザキが歩み寄ってくる。

「ああ。風のうわさでな。その少女は大いなる風を操る力を持っており、エルパローラの中でも特に強い。エルパローラだけではなく、一般的にも優れているようだな。
 ああ。そいつが欲しい……。そいつに私の実験を……。そして」

 そこまで言うと、エザキは振り返りつかつかと歩いていった。
 靴の音が大きく響く。
 影に隠れるその手前、エザキは足を止め、

「私の、シリーズにな」

 つぶやいた。含み笑いがわずかに聞こえる。

「エザキ様。その少女を捕まえてきましょう」
「物分りが良いやつは好ましいよ」
「ありがとうございます」
「お前が頼りだよ、セドル」 

 名前を呼ぶ声は優しく。しかし大きな威圧を感じられる。
 そう言ってエザキは、まさにするりと闇に消えていった。
 セドルは一礼をする。下げた頭はしばらくあげずにそのままに。
 少しして、セドルは再びアールに向き直す。

「アールよ。もう一度その少女の所へ出向いてください。傷つけるんじゃなく、捕らえてここへ連れてくる。それが目的なのです。
 まぁ、時間稼ぎだけしてくれてもいいです。私も向かいますから」

 再び怪しげな紫の輝きを纏う手を、アールに添え、言葉を投げかける。

「ああ。一人ではまた失敗してもいけませんから、つい最近見つけた良い人材を連れて行くといいですよ」

 セドルを見るその目が、同調するように怪しい光を放っていた。
 アールは何かを言うこともなく、背を向けていった。

「少女を見つけたら、私に連絡をよこしなさいね」

 去り行くアールの背中に言葉を投げかけるセドル。
 返事はないが、それで十分だという顔で振り返り、セドルもまたこの場から消えていった。





 翌日エルパローラに着いた朝、出勤途中だったエルナを捕まえて、昨日の事を報告することにしたレミィとティナ。

「なに!? 襲われた?」

 ことさら大きな声で復唱するエルナ。

「あの、まぁ襲われてたのはノアなんですけど、そこに割っていったのは私達でして」
「ああ、しかし襲われたのは事実なんだろう。みんな大丈夫だったのか?」

 人のことながらとても心配した様子のエルナ。

「あたしとノアちゃんは無事でした。でもレミィがちょっと怪我をしちゃって……」

 そう言って、レミィのスカートをむんずと掴む。

「ちょ、やめ」

 バシンとティナの手を叩く。

「いたい」
「お前たちを見ると、そこまで酷いことにはならなかったようだな。でも、ノアもなぜそんな事になってたんだ……」

 困ったような顔をみせ、腕を組むエルナ。「もうちょっとしっかり釘打っとけばよかったかな」とぼそぼそつぶやく。

「あたしがいるから、レミィは大丈夫」
「……ノアもたまたまその男を見つけたようです。そして、後を追っていたと」
「……馬鹿だな」

 大きなため息がエルナの口から漏れる。

「確かにノアも強い力を持っているが、あの性格だ……下手したら大怪我するぞ」

 ティナの顔が不安にゆがむ。

「とりあえず、事情はわかった。アレストルの支部に報告しておく。この辺りも十分に警戒をしたほうがいいな」
「そうですね」

 レミィがうなずく。

「あ、あとそういえば」

 とティナが口をはさむ。

「ん?」
「ノアちゃんがどっか行く前に言ってました。襲ってきた人、見たことある。上級生の人だ、って」
「……本当か?」
「そういえばそうでした」

 レミィがかわりに答える。

「そうか。……そうだとしたら、やはり警戒が必要かもしれんな。もしかするとこの事件の……」

 そこまで言うと言葉を止めるエルナ。

「かもしれませんね」
「どうしたらいいのかな……」

 ちょっと心配そうにティナが言う。

「これはあいつらの仕事でもあるな」
「……生徒会ですか?」

 横からレミィが確認を取ると、イスに座っていたエルナがすくっと立ち上がり、そのまま窓辺に歩み寄っていった。
 そこから見える何かを見つめ、口を開く。

「ああ。生徒会だな」

 どこの学校、学園にもあるいわゆる『生徒会執行部』。
 しかしただの生徒会ではない。ここはあのエルパローラなのだ。
 もちろん、学園生活に関することを受け持つのは基本業務ではある。だが、それとは別に、さまざまな事件をも受け持ち解決の手助けをする、学園のアレストル的な役割もある。
 プレイシア・アレストルがあるのに、と思うだろうが、プレイシア・アレストルは基本一人または二人の少数配置が基本である。なので、広い範囲の事件などはプレイシア・アレストルだけでは間に合わない。
 それに、プレイシア・アレストルは、あくまでもアレストルの一員であり、基本はアレストルの規則に縛られる。
 その反面、生徒会は立派な『学園』の一員であり、規則は学園、ここで言うならエルパローラの規則に従うこととなる。
 それが、プレイシア・アレストルと大きく違うところである。
 ちなみに、生徒会は学園としても、一般的にみても非常に優秀な力を持つもので構成される。そのため、マスティカの事件に関することなどはアレストルにも負けない解決力を持っていたりする。
 今回の事件も、生徒会が動くのには十分な案件ではあるのだ。

「ということだ」
「生徒会のことは知ってましたけど、詳しく聞くと結構すごいんですね」

 と関心のレミィ。そしてティナ。

「アレストルも助かっているんだよ、生徒会には」
「あれですね、エルナさんは学園寄りなアレストルで、生徒会はアレストル寄りな生徒なんですね」

 珍しく明快なまとめを出すティナ。

「ん? ああ、まぁそんな感じだな」

 実際に、生徒会を経験したものが、そのままプレイシア・アレストルやアレストルになることも珍しくない。それほど優秀なのである。

「とりあえず、レインの所へ行ってくる。まぁ奴らのことだ。もしかしなくても、この出来事についてはもう知っているかもしれないけどな」
「そういうものなんですね」
「奴らおかしいからな」

 エルナの物言いはちょっと酷かったが、それは感心を含んだものであった。

 レイン・メルウェス。
 エルパローラ4年生であり、生徒会執行部の現会長である。
 その力は生徒会長に相応しく、いわゆる『アルトマステニア』と呼ばれる、マステニアの中でも上位に当る女性マステニアだ。
 力もさることながら、知恵も賢さも美貌の持ち主でもあり、誰もが尊敬の念を持つ、もはや生徒会長になるために存在していると思えるお人である。
 ちなみに、アルトマステニアの上には『エルディエスター』という称号があり、マステニア人口の中でも1%もいない最も優れたマステニアも存在する。
 エルパローラにも一人、学園長がそれに当たる。

「お前にもちゃんと後で報告するからな。授業、行けよ」

 早速部屋を出ようとしていたエルナが、振り返り室内の時計を指さしていた。

「はい。あ、レミィ、時間! ……あれぇ!? いない!」

 気づけばエルナより先に部屋を出ていたレミィだった。


第16話

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